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心理学ワールド 89号 私の出前授業 高校生のための心理学講座@帝京科学大学 旦 直子(帝京科学大学) | 日本心理学会

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Academic year: 2021

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30  2019年8月26日,帝京科学大学千住キャン パスにて「高校生のための心理学講座」が開催 されました。夏の暑いさなか,138名の受講者 にご参加いただき,非常に盛況で充実した講 座となりました。中でも高校1年生の参加が多 く,高校生が早い段階から心理学に興味をもっ ていることがうかがわれました。前年度に引き 続き2回目の参加だという高校生が複数名いた ことや,この夏一番楽しみにしていたイベント だったという声があったことからも,この講座 に対する期待を感じました。  5時限分の講義は10時20分〜 16時30分の長 時間に渡りましたが,受講者は最初から最後ま で非常に熱心で,真剣なまなざしで配布資料に 書き込みをしていたのが印象的でした。講義は いずれも初学者にも分かりやすくかつ濃密な内 容で,高校生の期待に十分に応えられたのでは ないかと思います。以下に各講座の内容を簡単 に紹介いたします。 1 時限目:「臨床心理学」 (帝京科学大学・大須賀隆子先生)  まず,臨床心理学は人の心に直接迫ろうと し,心の働きをよりよくするために働きかける 学問であり,その意味では自己理解と他者理解 から始まる学問とも言えるという説明がありま した。そして,心の働きをよりよくするための 方法として様々な心理療法を概説したうえで, 描画療法を始めとする表現療法によって心理的 問題の改善につながった様々な事例が紹介され ました。特に,言葉以前の絵の世界(無意識) と物語(意識)が統合される童話を作成するこ とによって,思いがけない自己理解や他者理解 につながった事例の紹介は受講者の関心をひい たようです。最後に表現療法の一つであるスク イッグル法を受講者全員で体験しました。具体 的には,二人一組になり,一人が紙にぐるぐる 描きをし,もう一人が描かれたものは何かを考 え(投影し),その通りに描き足すということ をしました。この体験は大変盛り上がり,受講 者も自分自身について考えるよいきっかけと なったようです。 2 時限目:「生理心理学」 (自治医科大学・平井真洋先生)  “社会と文化を創り上げる脳の仕組みとその 発達”という副題がつけられたこの講義は, “コミュニケーション”,“身体”,“脳”,“発達” をキーワードとしていました。「社会や文化は なぜできたのか?」という問いに対し,特に, 相手の気持ちや考えを理解する脳の仕組みを 切り口にして概説がなされました。内容として はかなり専門的でしたが,バイオロジカルモー ションや他者視点取得などの様々な実験課題の デモンストレーションが多く取り入れられてお り,高校生は一つ一つ納得しながら講義を受け ることができていたと思います。最新の脳科学 の知見が多く紹介され,刺激を受けた受講者も 多かったようです。午前中最後の講義だったの ですが,お昼休みの間も質問をする高校生の列 が絶えず,受講者が私たちの心と脳の関係につ いて強い興味を持ったことがうかがえました。 3 時限目:「動物心理学(比較認知科学)」 (上智大学・齋藤慈子先生)  まずは初めに,なぜ動物の心を調べるのかと いう比較認知科学の目的と,動物の心を調べる ための研究法について解説がありました。その

高校生のための心理学講座

@帝京科学大学

帝京科学大学教育人間科学部幼児保育学科 准教授

旦 直子

(だん なおこ)

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私の出前授業

Profile─ 慶應義塾大学大学院社会学研究科後期博士課程単位取得退学。博士 (心理学)。東京大学大学院総合文化研究科特任研究員,帝京科学大 学こども学部児童教育学科講師を経て,2013年より現職。専門は発 達心理学。著書は『赤ちゃん学を学ぶ人のために』(分担執筆,世界 思想社),『ベーシック発達心理学』(分担執筆,東京大学出版会),『公 認心理士スタンダードテキストシリーズ12 発達心理学』(分担執筆, ミネルヴァ書房)など。 うえで,最もヒトとインタラクションしている 動物種であるイヌとネコの社会的知性を探る研 究が,個体の認識,視線・注意の認識,信号 の認識という3つの視点から多数紹介されまし た。「飼い主の声を聞くと飼い主の顔を思い浮 かべる」,「ヒトの表情が分かる」,「ヒトの指差 しを手掛かりにエサを探せる」など,イヌとネ コに共通する研究結果が示された一方で、「イ ヌはエサが取れず困った場面ではヒトを見るが ネコは見ない」など,種間で異なる結果も紹介 され、受講者の興味をひいていました。いずれ もイヌとネコそれぞれの特性をふまえたうえで の解説がなされており,非常に説得力がありま した。受講者は,身近な動物の様々な研究結果 から,その心を探る面白さと有意性を感じたの ではないかと思います。 4 時限目:「社会心理学」 (帝京大学・大江朋子先生)  講義の最初に,社会心理学とは社会,文化, その場の状況などの影響を研究することで心の 仕組みに迫ろうとする学問であるという説明が なされました。その後,ふだんから行っていて も気づきにくい情報処理に焦点を当てた研究を 紹介しながら,好意,敵意,援助,攻撃などが 生まれる仕組みについて解説がありました。本 講義では,「人は置かれた状況によって容易に 加害者にも被害者にもなる(スタンフォード監 獄実験)」,「武器が近くにあるだけで攻撃的に なる(武器効果)」,「まわりに人がたくさんい るほど人助けしない(てんかん発作の実験)」, 「所属集団へのラベルづけが個人への反応を変 える(ステレオタイプ)」など,様々な実験が 紹介されました。受講者は,ひとりで考え決め ていると思っている行為の背後に,自分をとり まく社会環境とのかかわりが大量に潜んでいる ことに気づいたのではないかと思います。 5 時限目:「発達心理学」 (帝京科学大学・旦直子)  本講義は,発達心理学の中でも特に乳児期 の発達を中心に行われました。初めに,大人と 言葉でやり取りできない乳児の心を心理学がど のように解き明かしてきたのかについての方法 を説明した後,それを使って分かってきた「赤 ちゃんが見ている世界」について概説しまし た。「視力はどれくらい?」「色は知覚している のか?」といった感覚・知覚の発達,「物理法 則はわかっている?」「数を理解している?」「テ レビと現実を区別している?」といった認知の 発達,さらに「他者の心が分かる?」といった 社会性の発達について取り上げ,それぞれ具体 的な研究例を中心に解説しました。さらに,最 近研究例が増えてきた生理指標を用いた測定法 や胎児期の研究についても紹介しました。  講座後のアンケートでは,「面白かった」 「もっと勉強したくなりました」「視野が広がっ た」など,講座全体に対して肯定的なご意見 を多くいただいた他,「○○心理学についてす ごく楽しい経験ができた」「△△心理学に興味 を持ちました」といった個々の講義分野につ いての感想もたくさんいただきました。また, 「様々な視点であったり,考え方が違っていて, とても興味深かった」「自分の最も関心のある 分野がわかってきた」など,心理学の各分野の 違い・特徴について理解が進んだという感想も 見られました。進路選択のための情報源として も多少なりとも役立ったのであれば,企画者・ 講師として大変嬉しく思います。

参照

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