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2019年8月26日,帝京科学大学千住キャン
パスにて「高校生のための心理学講座」が開催
されました。夏の暑いさなか,138名の受講者
にご参加いただき,非常に盛況で充実した講
座となりました。中でも高校1年生の参加が多
く,高校生が早い段階から心理学に興味をもっ
ていることがうかがわれました。前年度に引き
続き2回目の参加だという高校生が複数名いた
ことや,この夏一番楽しみにしていたイベント
だったという声があったことからも,この講座
に対する期待を感じました。
5時限分の講義は10時20分〜 16時30分の長
時間に渡りましたが,受講者は最初から最後ま
で非常に熱心で,真剣なまなざしで配布資料に
書き込みをしていたのが印象的でした。講義は
いずれも初学者にも分かりやすくかつ濃密な内
容で,高校生の期待に十分に応えられたのでは
ないかと思います。以下に各講座の内容を簡単
に紹介いたします。
1 時限目:「臨床心理学」
(帝京科学大学・大須賀隆子先生)
まず,臨床心理学は人の心に直接迫ろうと
し,心の働きをよりよくするために働きかける
学問であり,その意味では自己理解と他者理解
から始まる学問とも言えるという説明がありま
した。そして,心の働きをよりよくするための
方法として様々な心理療法を概説したうえで,
描画療法を始めとする表現療法によって心理的
問題の改善につながった様々な事例が紹介され
ました。特に,言葉以前の絵の世界(無意識)
と物語(意識)が統合される童話を作成するこ
とによって,思いがけない自己理解や他者理解
につながった事例の紹介は受講者の関心をひい
たようです。最後に表現療法の一つであるスク
イッグル法を受講者全員で体験しました。具体
的には,二人一組になり,一人が紙にぐるぐる
描きをし,もう一人が描かれたものは何かを考
え(投影し),その通りに描き足すということ
をしました。この体験は大変盛り上がり,受講
者も自分自身について考えるよいきっかけと
なったようです。
2 時限目:「生理心理学」
(自治医科大学・平井真洋先生)
“社会と文化を創り上げる脳の仕組みとその
発達”という副題がつけられたこの講義は,
“コミュニケーション”,“身体”,“脳”,“発達”
をキーワードとしていました。「社会や文化は
なぜできたのか?」という問いに対し,特に,
相手の気持ちや考えを理解する脳の仕組みを
切り口にして概説がなされました。内容として
はかなり専門的でしたが,バイオロジカルモー
ションや他者視点取得などの様々な実験課題の
デモンストレーションが多く取り入れられてお
り,高校生は一つ一つ納得しながら講義を受け
ることができていたと思います。最新の脳科学
の知見が多く紹介され,刺激を受けた受講者も
多かったようです。午前中最後の講義だったの
ですが,お昼休みの間も質問をする高校生の列
が絶えず,受講者が私たちの心と脳の関係につ
いて強い興味を持ったことがうかがえました。
3 時限目:「動物心理学(比較認知科学)」
(上智大学・齋藤慈子先生)
まずは初めに,なぜ動物の心を調べるのかと
いう比較認知科学の目的と,動物の心を調べる
ための研究法について解説がありました。その
高校生のための心理学講座
@帝京科学大学
帝京科学大学教育人間科学部幼児保育学科 准教授
旦 直子
(だん なおこ)
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私の出前授業
Profile─
慶應義塾大学大学院社会学研究科後期博士課程単位取得退学。博士
(心理学)。東京大学大学院総合文化研究科特任研究員,帝京科学大
学こども学部児童教育学科講師を経て,2013年より現職。専門は発
達心理学。著書は『赤ちゃん学を学ぶ人のために』(分担執筆,世界
思想社),『ベーシック発達心理学』(分担執筆,東京大学出版会),『公
認心理士スタンダードテキストシリーズ12 発達心理学』(分担執筆,
ミネルヴァ書房)など。
うえで,最もヒトとインタラクションしている
動物種であるイヌとネコの社会的知性を探る研
究が,個体の認識,視線・注意の認識,信号
の認識という3つの視点から多数紹介されまし
た。「飼い主の声を聞くと飼い主の顔を思い浮
かべる」,「ヒトの表情が分かる」,「ヒトの指差
しを手掛かりにエサを探せる」など,イヌとネ
コに共通する研究結果が示された一方で、「イ
ヌはエサが取れず困った場面ではヒトを見るが
ネコは見ない」など,種間で異なる結果も紹介
され、受講者の興味をひいていました。いずれ
もイヌとネコそれぞれの特性をふまえたうえで
の解説がなされており,非常に説得力がありま
した。受講者は,身近な動物の様々な研究結果
から,その心を探る面白さと有意性を感じたの
ではないかと思います。
4 時限目:「社会心理学」
(帝京大学・大江朋子先生)
講義の最初に,社会心理学とは社会,文化,
その場の状況などの影響を研究することで心の
仕組みに迫ろうとする学問であるという説明が
なされました。その後,ふだんから行っていて
も気づきにくい情報処理に焦点を当てた研究を
紹介しながら,好意,敵意,援助,攻撃などが
生まれる仕組みについて解説がありました。本
講義では,「人は置かれた状況によって容易に
加害者にも被害者にもなる(スタンフォード監
獄実験)」,「武器が近くにあるだけで攻撃的に
なる(武器効果)」,「まわりに人がたくさんい
るほど人助けしない(てんかん発作の実験)」,
「所属集団へのラベルづけが個人への反応を変
える(ステレオタイプ)」など,様々な実験が
紹介されました。受講者は,ひとりで考え決め
ていると思っている行為の背後に,自分をとり
まく社会環境とのかかわりが大量に潜んでいる
ことに気づいたのではないかと思います。
5 時限目:「発達心理学」
(帝京科学大学・旦直子)
本講義は,発達心理学の中でも特に乳児期
の発達を中心に行われました。初めに,大人と
言葉でやり取りできない乳児の心を心理学がど
のように解き明かしてきたのかについての方法
を説明した後,それを使って分かってきた「赤
ちゃんが見ている世界」について概説しまし
た。「視力はどれくらい?」「色は知覚している
のか?」といった感覚・知覚の発達,「物理法
則はわかっている?」「数を理解している?」「テ
レビと現実を区別している?」といった認知の
発達,さらに「他者の心が分かる?」といった
社会性の発達について取り上げ,それぞれ具体
的な研究例を中心に解説しました。さらに,最
近研究例が増えてきた生理指標を用いた測定法
や胎児期の研究についても紹介しました。
講座後のアンケートでは,「面白かった」
「もっと勉強したくなりました」「視野が広がっ
た」など,講座全体に対して肯定的なご意見
を多くいただいた他,「○○心理学についてす
ごく楽しい経験ができた」「△△心理学に興味
を持ちました」といった個々の講義分野につ
いての感想もたくさんいただきました。また,
「様々な視点であったり,考え方が違っていて,
とても興味深かった」「自分の最も関心のある
分野がわかってきた」など,心理学の各分野の
違い・特徴について理解が進んだという感想も
見られました。進路選択のための情報源として
も多少なりとも役立ったのであれば,企画者・
講師として大変嬉しく思います。